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広島高等裁判所 昭和41年(行コ)14号 判決 1968年7月17日

控訴人(原告) 脇本彰

被控訴人(被告) 呉市 外一名

主文

原判決を取り消す。

本件を広島地方裁判所に差し戻す。

事実

控訴代理人は、主文第一項同旨および「控訴人と被控訴人市との間で、被控訴人市が昭和三二年四月二八日付で被控訴人中田に対してなした呉市稲荷町一三番の八宅地二九坪の売渡処分が無効であることを確認する。これが理由がないときは、右売渡処分を取り消す。被控訴人中田は被控訴人市に対して、右土地について広島法務局呉支局同年六月一九日受付第四八五七号による同年同月一七日付売買を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次の点を付加する外は、原判決事実摘示のとおりである(ただし、被控訴人呉市の主張二、(三)前段の呉市土地区劃整理委員会を呉市土地区劃整理審議会と訂正する。)から、これを引用する。

一、控訴代理人の主張

1、昭和三八年法律第九九号地方自治法の一部を改正する法律附則一一条二項は、現に係属中のいわゆる住民訴訟について従前の地方自治法の規定の適用があることはもちろん、既に監査請求がなされている件に関しても、旧法の規定によつて住民訴訟を提起する旨を定めたものと解すべきものである。

2、控訴人が本件売渡処分を違法とする根拠は、売渡処分に固有の瑕疵があることと、仮換地指定処分に瑕疵があることとを理由とするものである。

本件売渡処分は、被控訴人中田が自己を仮換地指定を受けた重村チエである旨被控訴人市の職員を欺罔したことによるか、または被控訴人中田、訴外中田義春両名が右職員と通謀して行つた虚偽表示に該当するものであり、民法九〇条、九四条、九六条等の準用により、固有の瑕疵があるものといわねばならない。

3、本件売渡処分は私法上の売買ではない。

二、被控訴代理人の主張

1、控訴人主張2、の後段は否認する。

本件呉市稲荷町一三番地の八の土地は、負担地確保のために買受の申出があれば、被控訴人呉市において代替地として売り渡すべき土地であつた。したがつて、被控訴人中田にこれを売り渡したことは本来の目的にそうものである。

2、被控訴人呉市としては、土地区劃整理事業の施行に際して、減歩により生じた土地を負担地と称し、その取得を希望する者に対して、これに照応する土地(代替地と称する)の提供と負担地確保願と題する書面とを徴して仮換地処分をしていた。本件においては右趣旨の仮換地処分および代替地の売渡をしたものである。

3、本件売渡は私法上の売買契約である。

理由

一、地方自治法所定のいわゆる住民訴訟に関する規定が昭和三八年法律第九九号地方自治法の一部を改正する法律により改正され、右新規定は昭和三九年四月一日から施行されたことは原判決説示のとおりである。

本件は右施行前の昭和三二年四月二八日なされた売渡処分に対し、旧法の規定に基づいて控訴人が呉市監査委員に対する監査請求をなしたことに由来する訴訟であることは当事者間に争いがない。

そこで、本件訴訟について、新旧のいずれの規定が適用されるかについて、その経過規定である前記改正法附則一一条の趣旨を検討する。同条一項は右施行前になされた所為および施行前から引き続いている怠る事実に関する監査請求および住民訴訟にも新規定を適用することを原則と定め、同条二項において右例外として、新規定施行前に旧規定によりした監査請求および新規定施行の際現に係属している住民訴訟については旧規定によるとしている。

右二項の規定は文言だけから考えると、監査請求と住民訴訟を切り離して、旧規定により請求のあつた監査手続、旧規定により提起された住民訴訟については旧規定が適用されるが、右の監査の結果に不服のある請求者が新規定施行後に住民訴訟を提起する場合は前記一項の原則にかえつて新規定の適用があるよう解されないでもない。

しかし、住民訴訟の提起は監査請求手続を経ることを要件としていることは新旧両規定に共通であること、監査請求および住民訴訟の提起につき、新規定においては期間の制限が設けられたにかかわらず、期間の始期に関して、経過規定が前者にだけ設けられ(附則一一条一項後段)、後者には存在しないこと、監査請求における手続、これから訴訟に移行する手続について新旧両規定の間に相違があり、したがつて、旧規定による監査請求の結果に対し新規定による訴訟が行われるとすれば、出訴期間の始期について読替等の規定が必要であるにかかわらず、その規定がないこと等に徴するとき、旧規定により請求をした監査の結果に不服のある請求者の提起する訴訟については、旧規定の適用があるものと解するのが相当である。

そうすると本件訴訟は新法二四二条の二第二項所定の出訴期間の制限を受けないので、新法適用を前提として、出訴期間経過を理由とする被控訴人らの本案前の抗弁は採用できない。

二、被控訴人らは、控訴人が本訴を提起したのは、単に控訴人の個人的利益を計る目的であるから、住民全体の利益を確保するための制度である住民訴訟を提起することは許されない、と主張する。

しかし、住民訴訟は普通地方公共団体の住民がその職員の違法な行為の是正等を期する制度の一であつて、本件においては、被控訴人呉市の市民である(この点当事者間に争いがない。)控訴人が、本件売渡処分の違法を主張しているものである以上(控訴人の主張する事実自体が本件売渡処分を違法ならしめるものではないとまではいい得ない。)、それが同時に控訴人の個人的利益を目的としていても、本訴を不適法として排斥することはできない。

三、そうすると、原審が本訴を出訴期間を経過した不適法なものとして却下したことは不当であるので、民訴法三八八条に従つて、主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅芳郎 辻川利正 丸山明)

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